復帰初日
翌日、田中さん復帰初日。
昨日の黒髪ぽっちゃり彼女が、制服を着て出勤してきた。
この仕事はシフト制だけど、当時ほとんど学校に行かなくてよくなってる僕は朝から昼過ぎまで、時短勤務の田中さんは遅番のシフトは無く、やっぱり朝から夕方までの勤務。休みもしばらくは、指導する僕と同じになった。
復帰初日の休憩は田中さんと二人。
勤務中は接客中以外は眉間にシワを寄せてメモをはしらせ、緊張した面持ちだった彼女も休憩中は少しほっとしたようだった。
その日の社食の日替りは、忘れもしない焼き魚定食。魚は好きだけど食べるのが苦手な僕は違うメニューを選んだ。
田中さんは焼き魚定食。
きれいに身をほぐし、頭尾と背骨だけがきれいに漫画の様に残されている。
いいな…と思った。
「きれいに食べるね」
『妊娠中、カルシウム取らないといけないんで、小骨も食べてたら今も平気なんです。結構いけますよ。』
面白いかも(笑)
その後は初対面らしい当たり障り無い話をする。
少し打ち解けたところで、田中さんが切り出した。
『昨日はすみませんでした(>_<)』
え?何?
一瞬、なんのことかわからなくて。
「えーと…なんだっけ?」
僕にとっては覚えてもない、そんな些細なこと。
『店に伺ったのに、ご挨拶もせずに帰ってしまって。』
田中さんは社員だけど年下のせいか、僕には敬語だった。(これは、今でもほぼそのまま)
「あ~、全然問題ないっすよ~。気にしないでくださいね。もしかして、僕恐かった?(笑)」
冗談のつもりだったのに、図星を疲れたような顔をする。
傷つくなぁ。
『あんまり背が高いから、ビックリして。お顔も…そんなんだし』
「そんなん…って。」
『あ、でもお話したら凄く良い方で良かったです。ご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします。』
ペコッと頭を下げ顔全体クシャッとなる笑顔。
ペコッと…が表現としてぴったりなかわいいおじぎ。
かわいらしい…
この時から、僕は恋に落ちていたのかも知れない。