その後
音楽の趣味も全然違うし、お酒をほとんど飲まない(今考えたら当たり前)田中さんと、酒豪の僕。仕事以外で話すことは殆ど無い…
と思っていたが、僕たちには他のスタッフに無い共通点があった。
それは既婚者ということ。
田中さんも僕も長くつき合った後の結婚だったこともあり、あるあるな話をしたり、老夫婦のようだと愚痴を言ったりしては笑っていた。
僕と相方の間に子供はいなかったけど、田中さんのお子さんの日々のちょっとした事を聞いているのは楽しくて、うちもいつかこんな風になるのかなと、こそばゆい気持ちになっていた。
今まであったばかりの人に興味を持つことなんてあっただろうか。指導社員(うちはバイトでもペアのスタッフが決められ教育する方をこう呼んでいた)もはじめてじゃない。
彼女はその雰囲気そのままのふんわりゆっくりした話し方で天然なところがあり、僕はなごませてもらっていた。
でも、そんなところが気にくわない上司に苛められるようになっていった。バイトの僕はそのくそ上司の機嫌を取って、そいつが彼女に八つ当たりしないようにするくらいしかできなかった。
それでも、悩みを相談してくれる事はあったけど、人の悪口はこの頃から本当に聞いたことがなかった。
とにかく言い訳しない、健気な彼女がいとおしくなっていった。