慰労会
職場は定休日が無く、シフト制だったのでみんなで飲みに行こうということが中々無い。
でも、くそ店長(田中さんを苛めてたの人は店長でした)以外は仲が良かったので、都合がつくメンバーだけで飲みに行っていた。
田中さんは時短勤務も復帰数ヶ月で終了し、遅番のシフトも入るようになっていた。遅番は社員が4人でまわしていて、小さいお子さんがいる田中さんにとっては、結構負担だったんじゃないかな…と今なら思う。
でもやっぱりそういうことは聞いたこともなくて、同居の義両親が面倒見てくれるから大丈夫と。
さすがに飲み会はまだ行けないかなってクシャッと笑ってた。
ある時、店長も入れた懇親会を、年に2回くらいしかない店休日の日にすることになった。
なんと幹事は、順番だからと田中さんが任されることになった。
短大卒で入社して社会勉強する間もなく結婚して出産して、義両親と同居なら遊びにも行けないんだろう。実際飲みに行けないって言ってたし。
数日後、気になってグルメガイドとにらめっこしてる彼女に声をかけてみる。
「田中さん、お店探し順調?」
きょとんととして僕を見る。そして、笑顔。
俺の事好きなんちゃうかなと、アホなことを思う。
『田中さん…に馴れなくて(笑)』
そう。店のみんな(バイトまでも)は旧姓"及川おいかわ"で彼女の名前を呼ぶ。
呼び捨てか、さん付けか。
僕のことは
呼び捨てかくん付けか。
彼女だけが井原さんだった(未だにこれで呼ばれる事多々。さすがに他人行儀すぎるので、僕が訂正する。)
『井原さん、相談してもいいですか?』
「おう。田中さんの言うことなら何でも聞くよー」
『またまた~(^-^)でも、ありがとうございます!』
照れ隠しというか、僕の中の彼女への淡い気持ちを本気で伝える訳にはいかなかったので、当時はこんな風におちゃらけて発散していた。と、思う
『井原さんはお酒よく飲まれますよね?このお店かこのお店だったらお酒のラインナップどっちが良いですか?お料理はこのコースかなって思うんですけど』
今と違ってネット検索するとお勧めの店が出てきて口コミが見られて…という探し方ができないので、お店決めは経験の少ない彼女には大変だったと思う。
でも、一生懸命皆に喜んでもらおうと調べている彼女はやっぱり素敵だった。
店休日のシャッターのしまった店の前で集合して、店に向かう事になり待合せ。
制服じゃなくて、長い黒髪をおろした田中さんに会うのは2回目だった。母とは思えない佇まい。田中さん1番、僕が2番。先に来てる彼女の後ろから照れ隠しの声をかける。
「なーなー姉ちゃん、茶ー飲みに行かへん?」
一瞬、びくっとなる田中さん。
振り替えって僕をを見上げた彼女のクシャッとした笑顔。
『行きましょか?(笑)』
(やっぱり、僕の事好きやろ)と思った。
ほんとにこう思う事は多々あった。
それが、勘違いでも無かったと僕が知ることになるのは
ここから十数年後だった。
当日も細かいことを気にして事前チェックしたり、わからない事は仲間に聞いたりしながら、会は楽しく終了した。
二次会は安定の不参加。
解散間際、酔っぱらいすぎてた僕は、彼氏持ちの矢野さんとハグ…してたらしい。
このときの事を再会後に彼女から聞くことになる。
後々、再会するまで何回かみんなで飲みに行ったが、ふみちゃんが二次会のカラオケに参加したのは1回だけだった。